こんにちは。撮れ高デスクスタッフです。
映像の仕事を長く続けていると、さまざまな現場を経験します。
大規模なコンサート収録、テレビ番組のロケ、スポーツ中継、イベント配信。どれも印象深い仕事ですが、今でも鮮明に記憶に残っている現場があります。それは、まだ若かった頃に訪れた、小笠原諸島・父島での塩職人への密着ロケです。
当時の私は、映像業界に入ってまだ数年。毎日が勉強で、先輩たちの背中を追いかけながら必死に仕事を覚えていました。そんなある日、「父島で塩職人に密着するロケがある」と聞きました。
父島。
名前は知っていても、どこにあるのかさえ正確には分かっていませんでした。しかし、そのロケは私の人生の中でも特別な思い出になることになります。
東京から24時間。まるで別世界への旅
父島へ行くには飛行機がありません。東京・竹芝桟橋から出航するおがさわら丸で向かいます。
片道約24時間。
今の感覚では驚く人も多いかもしれませんが、当時はそれが当たり前でした。しかも現在のようにスマートフォンなどありません。船に乗ってしまえば外部との連絡手段はほとんどなく、仕事のメールもなければSNSもありません。本当に社会から切り離されたような感覚でした。今思えばとても贅沢な時間だったのかもしれません。
海しか見えない景色の中で、ただ父島へ向かう。
都会の慌ただしさから離れ、自分自身と向き合える時間でもありました。

12月なのに初夏だった父島
父島に到着して最初に驚いたのは気候です。ロケは12月でした。東京ではコートが必要な季節です。しかし父島はまるで初夏。半袖でも過ごせるような暖かさで、空気もどこか南国特有のゆったりした雰囲気に包まれていました。
港へ降り立った瞬間から、「ここは本当に東京なのか」と思ったことを覚えています。島のあちこちには色鮮やかな植物が生い茂り、パッションフルーツが普通に実っていました。当時の私にとって、パッションフルーツはスーパーで見かける珍しい果物でした。それが島ではごく当たり前のように存在している。そんな光景に驚きながら歩いた記憶があります。

道路を歩くサワガニに驚いた
父島で印象的だったものの一つがサワガニです。道路を歩いていると、サワガニがのんびり横断していることがあります。都会ではまず見られない光景です。車もそれを避けるようにゆっくり進みます。時間がゆっくり流れている島だからこその風景だったのでしょう。
東京では常に時計を見ながら行動します。電車の時間を気にし、締切を気にし、分刻みで動くことも珍しくありません。しかし父島では違いました。自然のリズムが人の生活の中心にありました。
若かった私は、その時間の流れ方そのものに感動していました。

帰りたくても帰れない島
父島の生活で最も驚いたのは交通事情でした。父島と東京を結ぶ船は頻繁に出ているわけではありません。当時は特に今より不便で、島へ来たら次の船まで待つしかありませんでした。つまり、途中で帰りたくなっても帰れないのです。
もちろん仕事で来ているので帰るつもりはありませんでしたが、「何かあってもすぐには帰れない」という環境は初めてでした。それだけに、島の人たちの助け合いの精神は強く感じました。限られた環境の中で支え合って生活している。
都会では当たり前に手に入るものが簡単には手に入らない。だからこそ、人とのつながりが大切になる。そんなことを自然と学んだ気がします。
塩職人の仕事は自然との対話だった
今回密着した塩職人は、毎日海と向き合っていました。海水を汲み上げ、煮詰め、結晶化させる。言葉にすると単純ですが、その工程には職人の経験が凝縮されていました。
天候。
風向き。
湿度。
潮の状態。
全てが塩の品質に影響します。
「昨日と同じ海はないんだよ」そう話してくれた職人さんの言葉が今でも印象に残っています。
自然相手の仕事にマニュアルはありません。毎日変わる環境の中で最善を尽くす。その姿勢は映像制作にも通じるものがありました。
若かった自分が学んだこと
当時の私は技術ばかりを追いかけていました。
良い映像を撮りたい。
先輩に認められたい。
失敗したくない。
そんなことばかり考えていたと思います。
しかし父島で出会った職人さんは違いました。結果を焦ることなく、ただ目の前の仕事と真剣に向き合っていました。
自然に逆らわない。
手を抜かない。
毎日同じように努力する。
その積み重ねが良い塩を生み出していました。映像制作も同じです。派手な技術や高価な機材だけでは良い作品は作れません。人と向き合い、現場と向き合い、一つひとつ丁寧に積み重ねることが大切なのだと教えられました。
今でも心に残る父島の景色
あれから長い年月が経ちました。仕事の環境も大きく変わりました。スマートフォンが普及し、映像技術も進化しました。しかし、12月なのに初夏のような空気が流れていた父島の景色は今でも忘れられません。
道端に実るパッションフルーツ。
道路をのんびり横断するサワガニ。
どこまでも青い海。
そして、携帯電話も鳴らない静かな時間。
若き日に経験したあの1週間は、映像制作の原点を教えてくれた大切な時間でした。映像の仕事は、人と出会い、知らない世界に触れ、自分自身を成長させてくれる仕事です。
父島での塩職人への密着ロケは、まさにそれを実感した現場であり、30年近く経った今でも昨日のことのように思い出される…。私の人生にとってかけがえのない宝物となったロケでした。
株式会社撮れ高では、テレビ番組やライブ収録だけでなく、このような人の想いや仕事に寄り添うドキュメンタリー制作にも携わっています。
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